第三者機関としての立場を失った国・県(緊急財政対策案)追随の県人事委員会勧告
神奈川県人事委員会は10月25日、知事と県議会議長に対し2012年の給与等に関する報告及び勧告を行いました。その内容は、国勧告に追随するばかりでなく、県の緊急財政対策案や県議会の意見を色濃く反映したもので、第三者機関としての独立性中立性を放棄し、その見識を疑うものといわざるを得ません。
・平成24年 職員の給料等に関する報告及び給与改定に関する勧告
・県職労連情報No.72に概要(学習資料のページへ)
総人件費抑制のために僅かな公民較差でマイナスを勧告
第一に、マイナス公民較差に加え僅かなマイナス較差にもかわらずマイナス勧告を行ったことです。国勧告の民間給与地域別比較では関東甲信越地域が唯一公務が民間より低いという結果が出されています。その地域にある神奈川県は、国ラスパイレス比較で2011年度に102.9と上回っていますが、同水準の愛知県が0.01%のプラス較差を出している中、どうしてマイナスとなるのか説明が必要です。
さらに問題なのは、こうした僅かな公民較差に対し、過去においてプラスの場合は0.07%でも勧告を見送ったにもかかわらず、それを下回る0.06%で勧告を行ったことです。国人事院勧告では、給与特例措置(7.8%減額)措置の実態を踏まえマイナス0.07%公民較差を実施しないとしました。神奈川県でも公民較差対象の管理職手当減額措置(10%)が行われており同様の立場をとることは可能です。他の都道府県勧告でも「較差が小さく勧告せず」としている勧告が多い中で、マイナス勧告を行ったことは、総人件費抑制の意向が強く働いたものと言わざるを得ません。
さらにマイナス勧告について「不利益不遡及」に事実上反する所要の調整を行うとしたことは、認めることができません。
緊急財政対策案におもねり、労使交渉を無視した「持家手当」廃止
第二に、今回のマイナス勧告は住居手当を廃止することを目的にしたもので、勧告が出され労使間で協議している内容に踏み込んで廃止勧告したことです。
今回のマイナス勧告は、第一にふれたとおり国や他都道府県以上に「総人件費抑制」姿勢を色濃く出してものですが、その標的は「自宅にかかる住居手当の廃止」であり、「持家手当廃止」を掲げた緊急財政対策案や県議会の意見を反映したものといわざるを得ません。人事委員会は、マイナス勧告の実施を、「手当廃止に向け取組みの一環」と位置付けました。すでに職員の持家政策と公民較差内解消を課題に労使協議が進んでいることを全く無視した人事委員会の「2013年4月から廃止することが適当」としたことを認めることはできません。
神奈川県における実態を無視した50歳台後半層の昇給昇格抑制
第三に、国勧告に追随し、50歳台後半層の昇給・昇格制度の「改正」を勧告したことです。50歳台後半層の公民給与較差は、昨年の勧告に対して県職労連として表明したとおり「賃金センサス」によるもので勧告における職務対応の公民比較と異なり、職務や経験年数等が考慮されず科学的な根拠がないものです。昨年の賃金確定交渉では、こうした県人事委員会勧告の「不当性」を修正し「級号給」による減額措置を行ってきました。こうした状況を捉えることなく、今回も改めて同様の「年齢基準」で勧告を行ったことは、県人事委員会の意固地な「意地」を示すだけで、納得性や説明責任を果たしていないと言わざるを得ません。
さらに、それを根拠に国に追随した昇給・昇格制度抑制を「改正」として打ち出したことは認めることはできません。愛知県を含め、他の多くの都道府県・政令市の人事委員会勧告では、国勧告で出された昇給・昇格制度の「改正」について、50歳台後半層の職員分布や職責の違いに着目し「引続き検討」する課題としました。国勧告と同様の制度を実施することにより生じる、経験や技術の蓄積から県庁の仕事を支える50歳台後半層の職員の仕事に対するインセンティブの低下、そして国より分布が多いことにより生ずる多額の公民較差財源の使途など、多くの課題の存在が、他の人事委員会をもって「引続き検討」とさせたわけです。国追随の姿勢を打ち出した県人事委員会の見識が疑われます。
緊急財政対策案「職員の相応負担」に全く触れず。第三者機関の立場を放棄
第四に、緊急財政対策案における人事委員会勧告制度を無視した給与削減方針に全く触れていないことです。
今回の勧告では、「危機感共有」のための管理職手当削減について「不当性」を何らコメントをせず、削減前で公民較差を実施しました。人事委員会の立場からすると、人事委員会勧告水準を切り下げる緊急財政対策案に対する「相応の負担」に対して抗議コメントもあってしかるべきところですが、実際は逆に対策案の削減メニュー(持家手当廃止)を自ら勧告するという姿勢を打ち出しました。
国人事院でも、勧告水準以下は問題として一定の認識をこの間も示していますが、県人事委員会は問題とするどころか、率先して進めるという立場にたっています。地方公務員法は「情勢適応原則」「生計費原則」「国・他都道府県との均衡」「民間との均衡」と、人事委員会勧告の基準を示していますが、どこにも「財政事情尊重原則」や「議会発言留意原則」という言葉はありません。第三者機関としての役割を放棄していると見ざるを得ません。
人事評価制度の検証・評価等を絶えず行うよう報告
こうした中で、人事委員会として「新しい人材育成マスタープラン」の検証・評価を絶えず行う必要があるとしたことや、総労働時間短縮に向けた実態把握と取組みの着実な実施、メンタルヘルス対策の実施などを打ち出しました。これまでも、触れてきていることとはいえ、本庁出先間・職場間較差など職員の人事評価に対する不満や、過重労働の強いられている職場状況やメンタル疾患の増大等の実態を踏まえ、対策の実施を求める報告を行ったことは評価できます。
県人事委員会勧告を乗り越え生活改善につながる賃金確定を
今回の勧告は、冒頭に触れたとおり、総じて国人勧だけでなく「緊急財政対策案」に追随した、極めて不当なものであり、認めることはできません。
勧告を受け、これから賃金確定闘争がはじまります。
県職労連は、これまでの交渉経過と人事委員会勧告の公民較差を踏まえながらも、「緊急財政対策」に基づく賃金・労働条件の「相応の負担」(賃金・持家手当・経過措置差額・退職手当・福利厚生などの廃止・削減)阻止、生活改善に繋がる給与改善、初任給引上げ、50歳台後半層の昇給・昇格制度改悪阻止、均等待遇に基づく非正規職員の賃金・労働条件の改善、労働時間短縮、休暇制度の改善、メンタルヘルス対策の強化、年金と雇用の接続を基本とした高齢者雇用制度の改善など、職場の切実な要求の実現に向け、職場を基礎に取組みをすすめていきます。
2012年10月16日