パワハラ認否、責任所在など多くの問題点(2)
3 報告書の問題点
パワー・ハラスメント緊急調査チーム及び神奈川県職員等不祥事防止対策協議会からの報告について
①パワハラ認定すべき事実を明らかにしているにもかかわら
ず認定していない
報告書は「知事室上司は本人に対して、他の職員よりも高い頻度で怒鳴ることがあり、指示があいまいで職員が困惑する状況にあった」と認めています。そして、組織的な支援や予算の後ろ盾がなかったことを伺わせることとあわせ「知事の特命事項なので断ることは不可能であり、明らかに成功の見込みのない事業であったとして止めることはできず、実現できる方法や改善策を考えなくてはならないプレッシャーがあった」と述べています。これはパワハラ類型の「過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)」に当たるといえます。さらに、部長であった加害上司に対し若手であった被災者が異論や反論ができない中で「精神的な攻撃」と被災者が受け止めるに十分な状況に置かれていたと認定すべきです。
関係職員が組織や自身に都合の悪い証言をためらう可能性もあった中で、「明らかに怒られ役になっていた」などの証言がされたことの重みを重視すべきです。すべての職員が証言しなければパワハラとは認めないとする判断では、パワハラを容認、助長することに繋がります。
②責任の所在を明らかにしていない
加害者への個人攻撃は問題解決にならないとする報告書の見解は一理あると考えますが、なぜこのようなことを起こした(防げなかった)のか責任の所在を明らかにすることが無ければ再発防止はできません。
報告書では、財政課での負担軽減措置が結果として不十分であったことや、加害者とされる知事室上司の指導のやり方に問題があったと指摘しています。しかし、知事室及び財政課の管理監督者、産業医、人事当局など、職員を安全な労務環境のもとに職務遂行させることを職責としている者たちの責任を明らかにすべきです。
知事室及び財政課の管理監督者は、職員との面接や意向申告を受けるとともに時間外勤務の状況などを把握する仕組みを活用するなど、職員の過重労働を軽減し、職場でのパワハラを防止する措置を講じる必要があったにもかかわらず怠っていました。産業医は被災者が自殺する直前の11月に面接を行ったにもかかわらず異変を見過ごしました。人事当局は、知事室での長時間労働や疲労の蓄積、職員の意向や適性等を把握できていたにもかかわらず、県庁で最も激務の財政課に人事異動をさせました。そしてそれ以上に、庁内での恒常的な長時間労働やパワハラを放置し、自身の「特命事項」により職員を自殺に追い詰めた知事の責任がもっとも問われるべきです。
③隠ぺいと遺族や職員が受け止めても仕方のない対応を続けた
被災者が自殺をした当時、遺族から「公にしないでほしい」と要望されたとして、掲示板の訃報にも載せない徹底した情報隠しがされました。公務災害と認定した後も、提訴されるまで職員自殺の事実を公表しませんでした。遺族が要望した知事室上司によるパワハラの調査を、提訴を受けるまでは何ら行いませんでした。報告書では、関係職員への聞き取りにより「事実を隠す意図があったとまでは言えない」と判断していますが、関係職員からの聞き取りだけを理由に「事実を隠す意図は無かった」と判断するのは失当といわざるをえません。当時の状況を客観的にみれば、組織による事実上の隠ぺいが行われたと認めるべきです。
④パワハラの背景にある人事労務管理の問題を不問にしている
報告書は、職員が精神的、肉体的な疲労を一人で抱え込み、それを周囲に見せない理由を、個人の資質や周りの職員に負わしているかに読めます。しかし、背景には、業務の責任を組織ではなく個人に対し強く追及する人事評価や、事実上内示を断ることのできない人事異動など、県庁での人事労務管理の問題があります。上司にものが言えない組織のあり様、特に「特命事項」であったことが被災者を追い詰めたこと、意義を見出せない仕事に対しても意見具申ができないなど、県庁でパワハラが起きやすい状況こそが問われるべきです。さらに、職員の事務上のミスはすぐに懲戒処分されるにもかかわらず、組織的に影響の大きな事案に対しての責任追及をあいまいにするとともに、パワハラ常習者や職員安全配慮義務を怠るなど職員マネジメント能力に欠ける者であっても順当に昇格させるバランスに欠けた人事運用が、職員の士気に大きくかかわっています。
「県における業務のあり方やパワー・ハラスメント防止対策等について意見をまとめる」とした報告書の目的からみれば、こうした人事労務管理の問題を不問としたことは残念な結果と言わざるをえません。
⑤県庁でのパワハラの定性的な分析を-公務職場だからこそ職員が意見具申できる体制を
報告書では、知事室上司をはじめ加害者にパワハラの認識をさせる必要を述べていますが、県庁で起きているパワハラの特徴についての分析がされなければ、県庁職場に即したパワハラ根絶には繋がらないと考えます。昨年12月に急きょ行った職員パワハラアンケートの結果について、被害を受けたとする者(23%)と加害をしたと感じた者(9%)のかい離といった定量的な分析に留めるのではなく、アンケートに記述された事例や、労働組合も加えた職員への聞き取りなどを通じた定性的な分析が必要だったと思われます。県庁で起きるパワハラは、職員が意義を見出さない業務であっても、知事や議会の意向を受けた上司からの指示に異論や反論ができないことに起因することが多いのではないでしょうか。こうした点から言えば、朝夕ミーティングやパワハラ相談窓口の周知に留まる対応策では、県庁のパワハラ根絶には繋がりません。労働組合の「活用」も含めた、民主化な県庁職場の構築を目指した視点が必要だったのではないでしょうか。
以上
2020年5月19日