「苦役列車」 監督:山下敦弘
原作は二年前の芥川賞受賞作で作者は西村賢太。選者の石原慎太郎が絶賛した私小説だ。石原の「太陽の季節」と好対照をなす作品で、共に若者のあがきを描く。
主人公は日雇労働者。安アパートに住むが家賃滞納で幾たびも転居を重ねる。金が入れば風俗に通い、安酒に酔い暴力沙汰を起こし、結局はボコボコに殴られて終わる。映画のキャッチコピー『「俺には何もない」がある』は実に上手く主人公を言い当てている。
原作者は受賞後たびたびTV等に出演し、「北朝鮮ミサイルが九州に落ちても東京に落ちなければいい」と発言するなど過激な言動をするが、そんなところも慎太郎に似ている。西村はこの映画を評し「原作では主人公が江戸っ子であること以外に何の誇りも持てず、また周囲に気に入られようと必死にならざるを得ない境遇の少年であるのに映画ではそこが描かれず」(文藝春秋8月号)と不満を述べている。確かに映画を見ていると無軌道ぶりばかりが目立つ。
主人公を演じる森山未来は、この気の小さい怪物を好演している。青年の翳りは見事だが、無頼さに欠けるのが難か。
2012年12月20日