「終の信託」監督:周防正行


フィルムの画像

 痴漢冤罪事件を扱った「それでもボクはやってない」で世評の高い支持を得た周防監督の5年振りの劇映画の新作だ。

 今回は患者の尊厳死をめぐる刑事事件により被告となった女医が主人公である。彼女はぜんそくで苦しむ患者から、自分の最末期には延命治療をしないよう依頼を受ける。彼女は患者から最終の信託を受けたことになる。これが題名の由来だ。

 画面にはすべて日本語の字幕が入る。観客は耳と目で物語の進行を確認することになるが、これは終末医療という重いテーマと、特殊医療用語を理解するのに役立つ。この試みは日本映画では初めてではないだろうか。こんなところにも監督の誠意と意気込みを感じる。

 圧巻は最後の四五分だ。被告となった女医と検事との取調室でのやり取り。殺人と断定する検事とそれに異議を唱える女医との場面だ。見えない刃を秘めたような両者の言葉の応酬、そして沈黙の間の表情。四五分をあくことなく展開させる演出術。共に見事であった。女医は草刈民代で、実に立派な女優となったことに驚く。検事に大沢たかお、患者に役所広司が扮する。挿入されるオペラのアリアも印象的だ。

2012年 日本

« »