「天地明察」監督:滝田洋二郎


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 ベストセラーの映画化で、監督が「おくりびと」の滝田洋二郎とあれば大いに期待し、また大変満足した作品であった。

 江戸時代初期の人々にとって「暦」は暮らしの中心であった。しかし、暦に記載のない日蝕が起きるたびに不安な思いを抱いた。すなわち世も政治も混乱する「乱世」の到来に怯えていたのだ。では、日蝕を予知することは不可能なのか。

 当時の「暦」は中国暦を採用していたため、中国と日本との距離の差(経度差)に原因があるのだが、主人公の安井算鉄はその疑問を追い、さらに日本独自の暦作りに立ち上がる。

 映画は彼の艱難辛苦するさまを、和算の関孝和や碁の本因坊、水戸光圀、会津藩主保科正之などをからめ展開する。滝田洋二郎のケレン味のない堂々とした演出は見事で、大監督の風格さえ感じる。今や日本を代表する作曲家となった久石譲の音楽も見事だ。

 決して諦めない主人公の生き様は感動的で、この秋お薦めの一本である。

 原作者沖方丁(うぶかたとう)は「天地明察」の取材中に水戸光圀を識り、「光圀伝」として新刊を出している。

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