「そして誰もいなくなった」 監督:ルネ・クレール


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 ご存じミステリーの女王アガサ・クリステイ49歳の作品。彼女の著作の中でも特に名高く、1982年の日本クリステイ・ファンクラブ投票では1位、1995アメリカ探偵作家クラブ選出の「史上最高のミステリー小説」の本格推理のジャンル1位などの評価を得ている。また、この作品は作者自身が戯曲化し、演劇、映画、テレビ等にされている。中でもこのルネ・クレール版の映画が名高い。

 孤島に閉じこめられた10人が一人ずつ殺されてゆくという密室もののジャンルだが、加えて童謡の歌詞になぞらえて殺害される「見立て殺人」のスタイルをもとっている。この手法に触発された横溝正史は「獄門島」、「悪魔の毛毬唄」を書いている。

 原作発表当時の題名は「10人の小さな黒ん坊」で、これは作中に採用している童謡を暗示したものだが、アフリカ系アメリカ人に対する差別用語であるため現行に改題した。

 監督のルネ・クレールは戦前のフランス映画を代表する大監督で「巴里の屋根の下」、「自由を我等に」、「最後の億万長者」等の名作を残し、当時の日本の映画関係者では神格化された存在であった。戦時中、ハリウッドで監督活動をしていた頃の作品の1本がこの「そして誰もいなくなった」だ。

 暗雲立ちこめる絶海の孤島に向かう小舟から映画は始まる。乗り合わせた8人と船頭の顔のアップが続くシーンからしてぞくぞくさせられる。こんなところがサイレント映画から携わったクレールの映像表現の巧みなところだろう。島の別荘の管理人2人を加えた10人が次々と殺害されてゆく。果たして犯人は誰か?白黒スタンダード版に展開するサスペンスを堪能して残暑を忘れてください。

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