長生村 知的障害ある男性殺害事件 神奈川県の検証チーム中間報告について
20241216長生村 知的障害ある男性殺害事件 神奈川県の検証チーム中間報告について(PDF)
長生村 知的障害ある男性殺害事件 神奈川県の検証チーム中間報告について
2024年7月4日、父親(77歳)が次男(44歳)の首をコードで絞め、搬送先の病院で亡くなって逮捕された事件が起きた。重い障がいがある次男のために静かな場所へと転居して1か月余り、将来を悲観してのことだという。転居前は神奈川に住み、県立中井やまゆり園を定期的に短期利用し、3年半前にも入所申請したが断られ、グループホーム入居や精神病院への入院も断られていた。
報道後に記者が神奈川県庁を取材したところ、障害サービス課長は事件と県施策との関係性を否定。施設は通過型が原則になっている等の一般論を繰り返した。しかし、2024年7月27日続報で、1か月前まで神奈川県に住み、施設入所を断られ、転居してからは毎日のように夫婦で寝ずに面倒を見ていた等の事実が明らかにされるに至り、独立行政法人化担当課長(当時)は一転して週明け2024年7月29日に支援経過を検証すると記者発表した。
偶然、2024年7月9日からNHKニュースで「待機障害者」という3回シリーズの特集番組が全国放映された。アンケート調査によれば、グループホームや入所施設の待機者が全国で約22,000人(回答率40%)、ニーズを把握していない都道府県は15か所という内容だった。県に照会したところ、2024年7月25日に「神奈川県は待機者を把握していない」という回答があった。
2024年7月30日の知事記者会見において、この事件について記者から質問があったが、知事は、入所施設待機者数の把握をしないまま、中井やまゆり園の定員を60名まで減らすことが実現するまで新規入所を停止決定したことに触れず、中井やまゆり園の支援を支援検討チームで見直すと発言した。これらは、2023年5月12日に有識者や障害当事者などでつくるチームがまとめた改革プログラムおよび同年7月に策定された「県立中井やまゆり園当事者目線の支援アクションプラン」、同年12月に策定された「県立障害者支援施設の方向性ビジョン」に明記されている。なお、支援検討チームには外部アドバイザーが含まれており、このアドバイザーがパワハラを行った可能性を指摘しておく。
「中井やまゆり園元利用者の死亡事案に係る検証チーム」が、第1回検証チーム会議を2024年8月27日に開催、9月12日に第2回会議、10月28日に第3回会議を開催し、12月10日に「中間報告書」が出された。この文書をまとめる部署の長は、昨年度の中井やまゆり園の園長である。在宅支援、転居後の対応、機関相互の連携、短期入所制度のあり方等が検討されたが、新規入所受入れを停止していた事実との因果関係についての分析はない。同時に、事実認識において、結論ありきで事実をピックアップし、園の職員が何らかの対応をしようとしていた部分については、一切記載がない。この結論ありきで事実をピックアップする手法は、アドバイザーのパワハラ問題や2022年当時の虐待案件時の調査と共通するものであり、園の職員の苦悩や疲弊は長期的である。
園の対応について、「園が元利用者と関わってから、ケースワークの視点を持った支援や、親身になって家族に寄り添う職員がおらず」「短期入所や長期入所を家族が求めた際の機械的な対応が、家族を追い詰め、家族が将来に希望を持てなくなってしまった」「千葉県への転居後、生活状況の確認など対応をしなかった」と、職員に責任があるかのように指摘した。
重要な点は「県本庁は、方針は示すが、施設入所を待機する方への対応についてなんら関与しなかった」「虐待事案等の改善のため新規入所受入れを停止すると判断した際に、短期入所だけでなく、通所を受け入れるなど、日中活動の支援をするなど元利用者をはじめ、在宅で生活している方への支援について、園としてどう対応していくのか検討していなかった」という指摘である。
また、限界を訴える今回のような事例に対して、「行動障害が強い本人を支えることができる第一候補が園だと断定的に考えるべきではなく、園も含めた地域の社会資源の中で、自立支援協議会、地域生活支援拠点、施設及び精神科病院の役割も検証しながら、地域で支えるためにどうすればよいか考える必要がある」と一般的な指摘をするだけとなっている。この検証チームの会議録は非公開、関係した事業所名も一部は非公開であり、個々の関係者にどこまでヒアリングをしたのかも明らかでない。
以上指摘したような中間報告では、同様の事件が、中井やまゆり園とは関係がない場所でも、さらに県内で発生する可能性を防ぐことができない。非公式ではあるが、複数追い詰められている事例を聞いている。その時、県当局は、短期入所を受け入れていた事業所や相談支援事業所に対して「利用者の希望や生きづらさを理解しようとしなかった、家族に親身に寄り添う職員がいなかった」というつもりなのか。その背景にある社会資源の不足が明らかであり、地域生活支援を担う各所から公的支援・助成が切望されている。
当局に対しては、2024年9月1日付「県職労連新聞」に掲載したとおり、地域のニーズを把握し、必要な居住サービスの提供体制を整えるとともに、そのために必要な提言を国に対して行っていくことを要望するものである。
2024年12月16日
神奈川県職員労働組合総連合
情報宣伝部長 齋藤 晋
2024年12月16日