「土」監督:内田吐夢


フィルムの画像

 日本で一番古い映画会社である日活は、今年創業百年を迎えた。記念の特集上映会が各地で催されているが、最大はフィルム・センターのものであろうか。1918年から78年まで制作された75本が上映される。無声の剣劇映画から戦前の文芸映画、全盛期である戦後のプログラムピクチャー、そしてロマンポルノの名作と充実した内容となっている。

 「土」は長塚節が明治43年に朝日新聞に発表した連載小説である。45年に単行本として刊行されたが、異例の長文の序文は漱石が書いた。農民を主人公とした日本の文学史上類を見ない小説、と絶賛している。

 映画「土」は小説出版後の27年を経てようやく映画化された。『「土」の中に出て来る人物は、最も貧しい百姓である。教育もなければ品格もなければ、ただ土の上に生み付けられて、土と共に生長した蛆同様に憐れな百姓の生活である。』と漱石が書いているように、映画向きとはいえない原作を敢えて取り上げたところに、当時の日活多摩川撮影所の人々の見識がうかがわれる。むろん昭和14年という微妙な年の背景もあろうが。

 映画「土」のオリジナルは142分である。しかし完全版は現存せず、近年ロシアで発見された117分版が現在のところ最長版となっており、今回はこの版が上映される。

 監督内田吐夢、主演小杉勇ともにこの時代を代表する、いや絶賛すべき映画人である。(1939年 日本)

« »